この10年で、日本の新聞は“斜陽産業”と呼ばれるようになりました。
1997年のピークから発行部数はおよそ半減し、全国紙5紙(読売・朝日・毎日・日経・産経)すべてが減少トレンドにあります。
そんななかで、読売新聞社と朝日新聞社は――とりわけ新聞販売店との関係において――まったく違う道を歩んできました。
一方は「紙で収益を守る」ことにこだわり、多様な“稼ぎ口”を用意してきた読売新聞社。
もう一方は「デジタルと広告」で生き残る道を模索し、ウェブメディアを次々と立ち上げてきた朝日新聞社。
販売店の目から見たとき、この10年で両社の「経営方針」と「販売店との距離感」はどこまで違ってしまったのか。
販売現場の実感と、公表されているデータを突き合わせながら解説します。
新聞販売店を取り巻く「10年」の現実
まず、この10年が販売店にとってどんな時代だったかを押さえておきます。
◆ 部数減少と「押し紙」問題
新聞の発行部数減少は、販売店の売上減少と直結します。
その一方で、業界では長年、いわゆる「押し紙」問題がくすぶり続けてきました。
参議院に提出された請願では、「押し紙」とは新聞社が販売店に卸したものの、実際には購読者に配達されない新聞を指し、「販売店は売れない分の代金も支払い続けなければならない」「零細企業が多い販売店にとって経営への影響が大きい」と指摘されています。
さらに、業界ウォッチャーによる調査や裁判報告では、
・実際の配達部数を上回る部数が“発注書上”では販売店側から発注された形になっている
・その結果、形式上は「押し売りではなく販売店の自己責任」とされてしまう
といった構図が批判されてきました。
つまり、
「部数は減るが、押し紙は簡単には減らない」
という矛盾した状況が、販売店のキャッシュフローを長年圧迫してきたわけです。
この前提の上に、「読売」と「朝日」の違いがあります。
読売新聞社 vs 朝日新聞社:この10年の経営方針比較データ(販売店目線)
| 項目 | 読売新聞社 | 朝日新聞社 |
|---|---|---|
| 中核戦略 | 「紙で生き残る」紙を主軸に収益維持 | デジタルメディア強化(広告・有料会員) |
| 売上柱の変化 | ・紙媒体の売上維持を最優先・物販・折込収入を強化 | ・紙媒体縮小を許容・ウェブ広告とデジタル課金を成長柱に |
| 押し紙(予備紙)の傾向 | 予備紙を切らさず本社売上を維持(減少しにくい) | 予備紙は徐々に減らす方向(部数減少を受け入れる) |
| 販売店の新規独立 | 専業社員を独立させ、販売店数を維持 | 新規独立は少なく、親子承継が中心 |
| 販売店への融資構造 | 銀行が融資しないため、社員個人に融資→独立させるモデル | 販売店新規独立が少ないため、融資の必要性も相対的に低い |
| 本社と販売店の関係性 | 強い上下関係。本社が直接介入し問題解決を主導 | 事業パートナー型。経営不振時は立て直しチャンスを与える |
| 周辺ビジネス | ・聖教新聞配達受託・YCお届け便(物販)・チラッシュ(折込強化) | ・テーマ別Webメディア多数(withnews 等) |
| デジタル戦略の方向性 | 「紙+デジタル」紙強化の補完ツールとしてデジタル採用 | 「デジタル+広告」で新規収益源を拡大 |
| 主なデジタル成果 | ・紙の価値向上が中心(デジタルは補助) | ・朝日新聞デジタル:会員約406万人(有料約25万人/2022年)・withnews:月間1.5億PV達成実績 |
| 販売店の収益構造 | 周辺ビジネスが大きく、販売店の複数収益を本社が提供 | デジタル収益の多くは本社側に帰属し、販売店には入りにくい |
| 販売店の弱点・リスク | ・紙依存のため市場縮小がダメージに直結・押し紙負担が重い | ・デジタル移行の恩恵が販売店に届きにくい・立て直し失敗時は統合・撤退も |
読売新聞社:紙の売上を死守しつつ、販売店の“稼ぎ口”を増やすモデル
◆ 「紙を軸に、デジタルは補完」という基本発想
読売新聞グループは近年、「新聞withデジタル」というスローガンを掲げています。紙の新聞が持ってきた「良質な情報のパッケージ」としての価値を前提に、デジタルツールで読者との接点を強化しようという戦略です。
ここには、
「紙を捨ててデジタルに全面シフトする」のではなく、
「紙を中心に据えたままデジタルで補完する」
という思想がはっきり見えます。
読売新聞社は「紙で生き残る」と明言してきたとされますが、公開情報から見ても、紙を基盤にした戦略であることは確かです。
◆ 押し紙を切らせない代わりに、“稼がせるメニュー”を本社が用意
販売店目線で見ると、読売は「予備紙(いわゆる押し紙)をあまり減らさない」代わりに、次のような売上補填メニューを本社主導で用意してきました。
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聖教新聞の配達受託
関東の読売系販売店が、聖教新聞の配達を担うケースが広く見られます。実態としては、販売店にとっての重要な収益源になっている地域も多いです。 -
YCお届け便(物販)
生活用品・食品などの宅配サービスを「新聞販売店の配送網」で届けるビジネス。新聞の配達スキームを応用し、販売店に“第2の売上柱”を提供する狙いがあります。※都内YCでは、多いところで1日あたり平均50〜100個程宅配を扱っている販売店もあります。 -
チラッシュ(折込広告の強化)
折込広告収入は、販売店にとって古くからの生命線です。ここに特化したサービスやプラットフォームを本社が用意し、折込の獲得や運用をテコ入れしている動きも見られます。
読売は、
「紙の部数(=本社の売上)は極力落とさない」
その代わりに、
「販売店には別の収益源を本社主導で用意し、トータルで食えるようにする」
という“パッケージ”を組んできたと言えます。
◆ 「独立させて販売店数を維持する」発想
もう一つの特徴が、販売店数を減らさない政策です。
銀行や行政が新聞販売店への融資に慎重になるなかで、読売は「専業社員を独立させて新たな販売店を作る」というやり方を取ってきました。
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これまで販売店で働いてきた専業社員に融資を受けさせる
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本社との契約を結び、新たな販売所長として“独立”させる
見かけ上は「独立した経営者」ですが、実態としては本社との取引条件や部数ノルマに縛られやすく、本社との上下関係は極めて強い構図になりがちです。
販売店に何か問題が起きれば、本社が積極的に介入し、場合によっては所長交代や区域再編を主導する――。
販売店から見れば、読売との関係は「完全な主従関係」に近いと感じる人が少なくありません。
※実際に販売店を立て直すために、本社担当が販売店に常駐し、担当から直接CHANGEに臨配依頼がきたこともあります。
朝日新聞社:ウェブメディアと広告で稼ぐ「分散型」モデル
| データ項目 | 読売新聞社 | 朝日新聞社 |
|---|---|---|
| デジタル方針の特徴 | 紙強化のためのデジタル活用(読者接点の拡張) | デジタルを新たな収益源として本格展開 |
| 主要デジタルサービス | 読売新聞オンライン(紙連動が中心) | 朝日新聞デジタル・withnews など複数展開 |
| 有料会員数 | 非公表(紙中心モデル) | 有料会員:約25万人(2022年) |
| 総会員数 | デジタル単体では公表少ない | 約406万人(無料+有料) |
| ウェブ広告収益の伸び | データ非公表(紙広告中心) | withnews などで広告モデルを確立 |
◆ 「朝日新聞デジタル」と有料会員ビジネス
朝日新聞社は比較的早い段階からデジタル転換を打ち出し、
・ニュースサイト「朝日新聞デジタル」 ・様々なウェブメディアの設立(ウェブ広告の拡充)
・電子版の有料会員制度 ・会員を全て「朝日ID」に統一
などの施策を拡充してきました。
公開資料によれば、朝日新聞デジタルは
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会員数:約406万人(うち有料会員約25万人/2022年4月時点)
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月間PVは約1億〜数億規模
と、紙とは別に安定したデジタル収益の柱を育ててきました。
◆ withnewsなど、「ウェブメディア乱立」の10年
さらに象徴的なのが、周辺のウェブメディア戦略です。
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2014年:スマホ世代向けニュースサイト「withnews」を立ち上げ
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「新聞を読まない世代に届ける」ことを目的に創刊
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数年で月間1.5億PVを達成し、広告収益でも成果を上げたと報告されています。
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このほかにも、ビジネス、国際、ライフスタイルなどテーマ別のウェブメディアを複数運営し、
「紙の広告」と「デジタル広告」
「定期購読」と「ウェブ課金・タイアップ広告」
という「収益ポートフォリオの分散」を進めてきました。
◆ 押し紙を減らしつつ、販売店は“事業パートナー”
朝日新聞社はこの10年、
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販売店の予備紙(押し紙)を徐々に減らしてきた
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本社側の売上(卸し部数)は減るが、“部数水増し”への依存度を下げる方向
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新規独立の販売店所長は少なく、親子間などの事業承継が中心
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本社と販売店は「上下関係」よりも「事業パートナー」に近い距離感
という特徴が見えてきます。
もちろん、販売店経営が悪化すれば本社も黙ってはいません。
ただし読売のように“常時管理”するというよりは、
「立て直しのチャンスを与える」
・区域を縮小して人件費負担を減らす
・所長を配置転換して立て直しを図る
といった形で、再建の機会を与えた上で、ダメなら撤退・統合という冷徹な側面もあります。
販売店から見た「真逆の経営方針」5つのポイント
ここまでを、販売店目線で整理すると、両社の違いは次の5点に集約できます。
① ビジネスの軸
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読売:紙の販売収入+紙広告+関連紙(聖教)+物販・折込
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朝日:紙の収入を維持しつつ、デジタル課金・デジタル広告に比重を移す
販売店への影響
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読売は「紙の部数を維持するための負担」を背負う代わりに、本社が複数の“稼ぎ口”をセットで用意してくれる。
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朝日は「紙の押し紙をある程度減らす」代わりに、デジタル収益は本社側に帰属しやすく、販売店には直接は落ちにくい。
② 押し紙との付き合い方
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読売:本社として紙の売上を守る方向性が強く、販売店側の残紙負担が重くなりがち。
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朝日:全体として部数を減らしながら、押し紙依存を緩める方向に動いていると見られる。
業界全体で押し紙問題が批判されるなか、
・読売は「紙のボリューム維持」を優先
・朝日は「デジタルで足りない売上を補填する」方向
と読めます。
③ 販売店の“人”の扱い
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読売:
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専業社員を独立させ、新たな所長として販売店数を維持
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融資を受けさせて独立させるため、負債リスクは個人が負う構図
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朝日:
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新規独立は少なく、既存販売店主の子どもに事業継承や隣店で区域分割化など
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「新しい人をどんどん独立させる」というより、既存ネットワークを細く長く維持する印象
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販売店にとっての意味
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読売は「チャンス」と「リスク」がセットの“起業型”モデル。
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朝日は「新規参入より継承重視」の“家業型”モデル。
④ 本社との距離感・権力関係
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読売:
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問題が起きると本社が積極的に介入し、区域再編・所長交代も主導
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契約条件・部数なども含め、明確な上下関係があると感じる販売店が多い
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朝日:
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通常時は「事業パートナー」として距離をとり、経営判断は販売店に委ねる
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ただし経営危機の際には「一度だけ立て直しのチャンス」を与え、それでもダメなら統合・撤退というスタンス
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どちらが“優しい”とは一概に言えませんが、
読売:常に本社の“目”があり、守られるが縛られる
朝日:比較的自由度は高いが、最後はドライに見切られる
という違いがあります。
⑤ 10年後を見据えた「生き残り戦略」
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読売:
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紙の読者基盤を守りながら、物販・サービス配送など「地域の物流インフラ」として販売店を拡張
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デジタルはあくまで紙の価値を高めるための“ツール”という位置付けが強い
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朝日:
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デジタル有料会員や広告ビジネスに比重を移し、「紙+デジタル+周辺ビジネス」の三本柱へ
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withnews のように、若い世代向けのメディアを育て、広告主との新しい接点を増やしているプレスリリース・ニュースリリース配信シェアNo.1
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販売店から見た不安と希望
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読売ルート:
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紙に依存する構造が続くため、市場縮小が進めば進むほど販売店の負担も大きくなり得る。
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ただし、本社主導の物販・配達ビジネスがうまくハマれば、「新聞+α」で生き残るチャンスもある。
- 競合他店を統合し、合配(合売)化による生き残り。
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朝日ルート:
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デジタル収益の多くは本社で完結し、販売店のビジネスモデルは“紙中心”のまま取り残されがち。
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その一方で、押し紙負担や過剰な部数維持からは少しずつ解放されてきている。
- 区域再編や隣店の一部を引き継ぐことによる売上増。
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| 項目 | 読売モデル | 朝日モデル |
|---|---|---|
| 本業(紙配達)での収益性 | 高めだが押し紙負担も大きい | 部数減少を受け入れるため収益は縮小傾向 |
| 補填・副収益の提供 | 本社主導で複数の収益源を提供(物販・折込等) | デジタル収益は販売店には直接入らない |
| 販売店の安定性 | 本社が強く介入し“守るが縛る”構造 | 比較的自由度は高いが見切りの判断も速い |
| 10年後を見据えた安定性 | 紙依存ゆえ市場縮小が続く場合はリスク | デジタルは伸びるが販売店の恩恵は限定的 |
これから販売店はどこを見るべきか?
最後に、「これから販売店がどこを見て動くべきか」を、あえて販売店寄りにまとめます。
① 「何部配るか」より「何を届けるか」
部数や押し紙に意識を奪われがちですが、広告主や読者が見ているのは、
「どんな生活者に、どんな情報・サービスが届いているか」
です。
広告主はすでに、公称部数よりも「実際に届いている読者の質」やターゲット性を重視し始めています。
チラシだけでなく、地域情報誌(地域メディア)、サンプリング、物販配送など、
“新聞販売店”から“地域メディア&物流拠点”への転換を考える必要があります。
② 「一社依存」を避ける
新聞販売店が複数紙を取り扱って収益を多角化する。
読売、朝日どちらの系列に属していても、
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自社地域メディアでの広告収益化や地域フリーペーパー、ポスティング事業
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物販・宅配サービスの受託
など、“一本足打法”からの脱却は急務です。
③ 本社との関係性を「契約」として冷静に見る
読売型の「守られるけれど縛られる関係」も、朝日型の「パートナーだが最後はドライな関係」も、
どちらも一長一短があります。
大事なのは、
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契約条件
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押し紙(予備紙)の扱い
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経営悪化時の本社の対応方針
を情緒ではなく数字と条件で把握し、自分のリスク許容度と照らし合わせることです。
同じ「全国紙」でも、販売店から見る景色はここまで違う
この10年、読売新聞社と朝日新聞社は
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一方は「紙の売上維持+販売店の周辺ビジネス強化」
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一方は「紙の縮小を受け入れつつ、デジタルと広告で再成長」
という、ほぼ真逆の経営方針を歩んできました。
販売店の現場に立つと、その違いはさらに鮮明になります。
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押し紙の重さ
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本社との距離感
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独立のチャンスとリスク
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デジタル化の“恩恵”が自分に返ってくるかどうか
同じ新聞業界の中でさえ、選ぶ系列によって「10年後の風景」は大きく変わり得ます。
読売と朝日のどちらが正解か――それは、
「あなたの販売店が、何をリスクと見て、何をチャンスと見るか」
で変わるはずです。
しかし確かなのは、どちらの系列に属していても、販売店自身が“次の10年の戦略”を持たなければ生き残れないということは確実です。
